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こころのしずく

こころのしずく

二次創作その他小説 1




二次創作その他小説目次


差し上げもの小説

「メジャー」(マンガ)
横浜リトルとの対戦後から吾朗が引っ越しするまでの、吾朗と寿也の物語です。(吾朗×寿也・シリアス)

「メジャー」を知らない方へ簡単にご説明(小説に関連するところのみ)
主人公の吾朗は9歳の野球少年。寿也という同年齢の友達がいる。寿也は幼い頃吾朗から野球を教わり、9歳の春横浜リトルへ入団。吾朗は弱小チームの三船ドルフィンズへ。夏、二チームは対戦し、三船ドルフィンズが勝利する。
父を亡くしていた吾朗だったが、冬に母が結婚。年が明け、父の転勤が決まり、吾朗は町を離れることに……。

注:軽いBL要素を含みます。苦手な方はご遠慮ください。


『さよならの代わりに』(二次創作その他小説1)

 茂野のおじさん……じゃなくって、父さんの事情で引っ越しが決まったのは、冬の終わりのまだ寒い日だった。オレは、部屋の窓から、ちらちら落ちる雪を眺めてたんだ。別にオレ、そんな柄じゃないんだけどさ。でも、急にこんなことになって、実感もわかねーのに何やっても落ち着かなくて……ふと雪を見たら妙に静かな気持ちになれたんだ。
 当たり前なんだけど、あの暑い夏とはあまりにも対照的なんだよな。この雪は静かすぎてさ。去年の夏は、そーいえばやけに暑かったな。気温だけじゃなくて、心ん中もすっげー熱かった。三船ドルフィンズの仲間とぼろぼろになるまで一生懸命練習して、そしてのぞんだあの試合。忘れることの出来ない、横浜リトルとの対決。弱小チームだったオレたちが勝っちゃったんだから、すげぇうれしかったはずなんだ。だから今、あいつらと離れるさみしさも感じてる。
 だけど、なんかそれだけじゃなくて……。
「寿君……」
 無意識に口からもれた言葉に、オレはめちゃくちゃ恥ずかしくなってベッドに寝ころんだ。大の字に寝ころび、白い天井を見ると、オレはいつも思い出す。白いユニフォームを着てる、寿君を……。
 あの試合が、寿君を見た最後だった。あのおとなしい寿君が、試合中はすげーシビアで、けどカッコよかった。だけど、試合が終わって、最後に見た寿君は泣きそうだった。
 あれから、寿君は一度もオレに会いに来ないし、オレも会いに行ってない。寿君は、オレが横浜リトルでなく三船ドルフィンズを選んだときから、きっとオレのことライバルだと思ってたんだろうな。だから、次に会うときは、来年の夏の試合だったはずなんだ。それなのに……。
 オレ、みんなにはもう会わない。いや、もう会えない……。「さよなら」は、おとさんが死んだときから、一番嫌いな言葉だから……。だからオレは、みんなと別れるために会うなんて、出来やしねーんだ。だから、三船ドルフィンズのみんなとも……そして、寿君とも……もう……。

 月日は流れ、とうとう引っ越しの日がやってきた。オレは父さんが運転する車に母さんと乗って、今三船ドルフィンズが練習している風景を車の窓から眺めてる。
「……いいよ、もう行って……」
 気持ちの整理がついたオレは、父さんに言った。車が走り出す。けれど、車が寿君の家の近くを通りかかったとき……オレはなんだかたまらない気持ちになったんだ。「さよなら」は言えない。寿君には、特に言いたくない。だからもう会えない。それなのに――
「……父さん止めて!!」
 オレはつい叫んでしまっていた。父さんは、あわてて車をキーッと止める。
「ごめん……待ってて。すぐ戻るから!」
 そうして、オレはかけだした。

 寿君の家の前。オレは走ってきた勢いで心臓をばくばくさせながら、なんでかわかんねーけど少し震える手でチャイムを押す。ドアが開く。
「吾朗くん!!」
 寿君が、驚いた顔で現れた。

 夕焼け色に染まった河原の土手を、オレは寿君と並んで歩く。
「ボクに用って、何?」
 寿君は、オレに目を合わせずに言う。
「お前、何であれから一度もオレに会いに来ないわけ? 友達として、感じ悪くねーか?」
 つい、ケンカ腰の口調になってしまう。
「……ゴメン。ボク、吾朗くんに合わす顔がなかったんだ。だってボクは試合で――」
「ゴメンもういいよ!!」
 予想通りの答えだった。オレは、寿君のこと思ったよりよく分かってるんだな。
 そう思ったら、なんでか急に、涙が出そうになった。それに、どうしていいかわかんなくなった。さよならの代わりに、オレは寿君に何をすればいいんだろう。
「オレさぁ、あの試合で肩ぶっ壊しちまったんだ。もう治ったんだけどさ、でももう野球やめることにしたんだ」
 これが、さよならの代わりに考えた、オレの精一杯の言葉だった。
「えっ!? 嘘でしょ」
 寿君は、困惑した顔になる。そのまま、しばらく黙ったままの寿君。きっと、怒ってるんだろうな……。オレが野球をすすめたのにさ。でも、これでいいんだ。
「……そうだよね。残念だけど、仕方ないよね。ボクは、それでいいと思うよ」
 寿君の言葉に、オレは目を見開いた。
「だって、吾朗君の体が一番大事だよ」
 寿君は歩みを止め、笑顔でオレに振り向いた。
「野球やめても、ボクたちずっと――」
 オレは夢中になっていて、一瞬後に気がついたんだ。寿君に、キスしてたことに。
 オレはそのまま、寿君に抱きついた。そうしながら、オレ、混乱した頭で必死に考えてたんだ。何やってんだオレ。何てことしてんだオレ。訳、わかんねぇ……。
 その時……寿君は、オレを抱きしめ返してくれたんだ……。
 オレは、背中にまわされた寿君の温かい腕の中で、安心して、だんだん分かってきたんだ。オレは子供で、寿君とどうやって別れていったらいいかも分からなくて……何も言葉が思いつかないから……。だからあのキスはさよならの代わりなんだ。オレ、寿君がこんなに大好きだったんだ。
 そう思ったら、涙があふれて……オレは肩を震わせて寿君にぎゅっと抱きついて泣いた。
 その時、ずっと黙ってた寿君が、口を開いたんだ。
「……吾朗君、もしかして、どっか行っちゃうの?」
 オレははっとした。
「だって……前に別れたときも泣いてたもの。野球やめるっていうのも、それを隠すための嘘なんじゃないの?」
 静かに言う寿君。相変わらず、頭がいいんだな。寿君は……。
 オレは観念して、寿君に抱きついたままうなずいた。そしたら、寿君はそっとオレの肩をつかんで離した。うつむく寿君の表情は読みとれないけど、怒ってるのかな、やっぱ。
 だけど、次の瞬間気付いた。そうじゃなかったんだ。寿君は、河原の草の上に、涙をぼろぼろこぼしていたんだ。
「寿君……」
 オレは声をかけたけど、寿君はうつむいたまま。腕で涙をぬぐいながら、肩を激しく震わせて泣いてる。さっきのオレと同じように……。
「寿君……」
 もう一回声をかけたけど、寿君は泣いているまま。
「寿君……!」
 三度目に声をかけたとき、寿君はオレの首に手をまわしてキスをした。そしてさっきのオレと同じようにオレに抱きついて泣きながら、寿君は言った。
「ボク……吾朗君が大好きだよ。……誰よりも」
 オレは心臓が、ドクンとした。
「オレも……寿君が一番大好きだよ」
 オレはさっきとは逆に、寿君を抱きしめた。だけど、さっきと違うところは……、一緒に泣いちゃったことかな。

 その後オレたちは、笑顔で別れたんだ。何も言わずに、さよならも言わずに。だって、オレたちはさよならの代わりをちゃんとしたんだから。

 寿君に、心の中で、こう言ったんだ。

 さよならは、言わないよ。だって、その言葉は、おとさんが死んだときから一番嫌いな言葉だから。大きくなったら、また会おうね。オレ、寿君のこと本当に好きだから、きっとまた会ったときも好きなままだよ。その時、寿君もオレのこと好きでいてくれたら、オレうれしいな。



☆あとがき☆
管理人、初のギャグ抜きBLです。この小説は、日頃お世話になっている塔子様へお礼として書かせて頂きました。リクエスト小説ではないので、ストーリーは管理人が勝手に考えさせて頂きました。
この小説を、塔子様へ捧げます。

追記:光栄にも塔子様がご自分のHPに掲載してくださいました。本当にありがとうございます。
追記:塔子様が別のお名前で運営されているサイトに掲載して下さいました。ありがとうございます!



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